滋賀県医師協同組合 Shiga Medical Cooperative Association

滋賀県医師協同組合は、滋賀県の開業医のための組合です。


最近、個人所得に対する増税、課税強化が話題になっていますが、これはどのような内容なのでしょうか?分かりやすくご説明下さい。ちなみに、わたしは現在、個人で診療所を開設しておりますが、近々、法人成りして一人医師医療法人を設立しようと考えております。
政府税調(税制調査会)が発表した個人所得に対する課税強化についてお話ししていきたいと思います。
給与所得控除とは 給与所得の改正案について
特定支出控除とは 退職所得とは
退職所得の改正案について    

給与所得控除とは

まず、改正の内容に入る前に、そもそも給与所得控除がどのようなものなのか?というところからお話ししましょう。

給与所得については、事業所得や不動産所得とは異なり、収入から必要経費を控除して所得金額を算出するのではなく、給与収入に応じた一定の割合を控除して所得金額を算出します。この給与収入に応じた一定の割合が給与所得控除であり、いわばサラリーマン(給与所得者)に対する概算の必要経費とお考え頂ければ分かり易いと思います。

給与所得控除は、下記の区分に応じ各々算出した金額となります。

  ①給与収入<660万円・・・・・・・・・・・簡易給与所得表(省略)より求めます
  ②給与収入≦660万円<1,000万円・・・給与収入×90%△120万円
  ③給与収入≧1,000万円・・・・・・・・・給与収入×95%△170万円

(例)たとえば、年間の給与収入が1,200万円の方の給与所得控除は、上記③より1,200万円×95%△170万円=230万円となり、給与所得は、給与収入の1,200万円からこの230万円を控除した970万円ということになります。

以上からお分かりのように、給与所得控除は実際の支出額ではなく、収入金額に応じた概算額です。それがために、給与所得者の実際の必要経費が給与所得控除に満たないとの政府試算とも重なり、長期的展望も踏まえた財政難を切り抜けるため、今回政府税調で論点として取り上げられることになったものと思われます。


給与所得の改正案について
今回政府税調により給与所得控除が問題として指摘されましたが、では、それについてどのような改正案が提示されているのか?というと、今回の発表は単なる問題点の指摘に過ぎず、具体的な案は示されていません。しかし、税調発表の“個人所得課税に関する論点整理”によると「職務遂行上の経費として認められる特定支出控除の対象範囲の拡大について検討する必要がある」と記載されています。これからすると、現行の概算額による給与所得控除から実際の支出額による給与所得控除への移行を示唆しているように考えられます。

なぜ実際の支出額への移行と分かるのか?と申しますと、文中「~特定支出控除の~」云々とありましたが、このことばがキーワードになります。そこで、次に特定支出控除とは何か?についてご説明します。

特定支出控除とは
給与所得は、上述のとおり、給与収入から概算による給与所得控除を差し引いて算出しますが、下記に該当する場合には、実際の支出額(給与所得控除およびそれを超える部分の実際支出額の合計額)を差し引いて算出します。この実際支出額を特定支出控除といいます。

 (1)給与所得者について特定支出(下記①~⑤)がある場合
    かつ
 (2)特定支出>給与所得控除の場合

具体的には、給与所得者が支出した下記①~⑤の支出額のうち、通常必要と認められる部分の金額を指し、①通勤費 ②転居費 ③研修費 ④資格取得費 ⑤帰宅旅費があります。内容の説明については、紙幅の都合上、割愛しますが、通常、給与所得控除を超えるような支出は起こり難いと思われます。現に、毎年特定支出の適用者数が公表されているようですが、数えるほどしか適用者がいないようです。

(例)たとえば、給与収入160万円の給与所得者の場合、給与所得控除は65万円になりますが、通勤費用として本人が支出(使用者が支給する通勤手当は除かれます)する金額が65万円以上になる可能性があっても、それだけの自腹を切って働く者がいるのでしょうか?一般的に考えて、あまり実用的ではないように思います。

お分かりのとおり、現在はどちらかというと非実用的なものではありますが、上記「~特定支出控除の対象範囲の拡大~」という表現からすると、これを利用し易く改正し、現行の概算による給与所得控除に代えて適用しようと考えているのかも知れません。

それよりも気になるのは、実際の運用(実務上)はどのようになるのでしょうか?膨大な数の給与所得者すべてについて、実際支出額での給与所得控除を行うのでしょうか?実務面というより実務に携わる者としては考えただけでまことに恐ろしいばかりですが・・・。

退職所得とは
退職所得とは、退職金等に係る所得を指し、具体的には下記の算式により計算します。ここで退職金等とは、退職に基因して支給される一時の給与を指します。よく連想されるのはサラリーマンの方が定年退職で支給される退職金ですが、ここでいう退職金等は何もこれだけを指すものではありません。その他よくあるものでは、個人事業主が廃業等に伴い受け取る小規模企業共済の共済一時金や事業主が従業員の解雇に伴い支給する解雇予告手当も退職金等に該当します。

 退職所得(注1)=( 退職金等の収入金額 △ 退職所得控除額(注2) ) × 1/2

(注1)厳密には、損益通算等の適用がある場合にはその適用後の金額となりますが、今回は説明を単純にするためにこれらの適用がないものとしてお話しします。以下同じ。

(注2)退職金等の収入金額よりも退職所得控除額の方が大きい場合には、退職所得は“0”となります。

上記の算式からもお分かりのように、退職所得については、前回の給与所得同様、事業所得や不動産所得とは異なり、収入から必要経費を控除して所得金額を算出するのではなく、勤続年数(注3)に応じた一定の割合を控除して所得金額を算出します。この割合が退職所得控除額であり、下記の区分に応じ各々算出した金額となります。

 ①勤続年数 ≦ 20年・・・40万円 × 勤続年数(最低80万円)

 ②勤続年数 > 20年・・・800万円 + 70万円 ×( 勤続年数 △ 20年 )

(注3)給与所得控除については、給与収入に応じて一定の割合を算出しましたが、退職所得控除については、勤続年数に応じて一定の割合を算出します。また、上記退職所得控除の算式にある勤続年数に1年未満の端数がある場合には、これを1年として計算します。

(注4)上記退職所得控除額について、障害者になったことを直接の原因として退職した場合には、上記①および②で算出した金額に100万円を加算した金額が退職所得控除の金額になります。

説明文ばかりでは分かり難いと思いますので、具体例を挙げてご説明しましょう。

(例1)下記のAさんについて、退職所得の計算をしてみます。

   入 社 日:昭和61年 4月 1日
   退 職 日:平成17年10月31日
   勤続年数:19年7ヶ月 → 20年
   退職金等:2,000万円
   退職所得=(2,000万円 △ 800万円) × 1/2
                     =40万円 × 20年
         =600万円

(例2)同じく下記のBさんについて、退職所得の計算をしてみます。

   入 社 日:昭和56年 4月 1日
   退 職 日:平成17年10月31日
   勤続年数:24年7ヶ月 → 25年
   退職金等:2,500万円
   退職所得=(2,500万円 △ 1,150万円) × 1/2
                     =800万円 + 70年 × (25年 △ 20年)
         =675万円

問題点を分かりやすくするために、(例1)(例2)で退職金等と勤続年数を同じ比率で設定しました。すでにお分かりのように、退職所得控除額が勤続年数に応じた実際の支出額でない点はさておき、20年を境に急増する点および勤続年数が(例の場合は違いますが)短期間であっても所得計算の際、2分の1されてしまう点が実務上租税回避に使われているのではないか?として今回政府税調で論点として取り上げられることになりました。

退職所得の改正案について
税調発表の“個人所得課税に関する論点整理”において、退職所得についても給与所得同様、上記のような単なる問題点の指摘だけで、具体的な改正案は示されていません。唯一、「就労形態に対して中立的な制度」となるよう見直しを行う旨述べられているに過ぎず、具体的にはどのように改正されるのか今後の発言が注目されます。  
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